2014年06月15日

僕の無事を祈ってくれ

一番好きな映画は何?と聞かれたら、たくさんあるし優柔不断なんでとても返事に困るんですけど、でも、必ず挙げるであろう、1988年のカザフスタン映画。

上映権が切れたと聞いていたので、もう二度と観られないだろうと勝手に悲観していたら、2014年.オーディトリウム渋谷で開催された、ソビエト・フィルム・クラシックスで再上映してくれました!

当時はニューウェーブだったこの映画も、もはやクラシックなのね(泣)。しばらくぶりに観て、ダサく感じたらどうしようかとドキドキしてましたが、時を経ても古びないどころか、今だから分かるその尖りっぷりに痺れました。

カザフスタン共和国最大の都市、アルマ・アタ(はロシア語だそうで、いまはカザフ語のアルマトゥイって呼び方が普通らしい)に帰ってきたモロ。演じるヴィクトル・ツォイはロックバンド「キノ」のボーカリストで、いかにもロッカーって感じの立ち居振る舞いなんですが、それにしちゃ、公衆電話を掛けるときの節約法が、セコかった(あるいはまさか、当時はこういうのがカッコよかった、のでせうか)。

どうやら、まずは古馴染みのスパルタクスから貸した金を取り立てようとしてるらしいのですが、相手はからっきし意気地なしで、ネズミのようにおどおどとモロの姿に怯え、梁の上に登ってまで隠れようとする始末。モロはこういう輩には取り合わないポリシーらしく、うっちゃっておいて、射撃場へと向かいます。

そこで華麗な射撃の腕を見せているのが、どうやら元恋人らしいディーナ。父親の別荘(ダーチャ)に泊まらせてくれ、というモロの頼みに、別荘は手放してしまったと言い、彼女は自宅の部屋の鍵を手渡します。

再会してよりを戻すかに見えた2人ですが、モロはディーナの秘密に気づいてしまう…。

鑑賞しながら、カザフスタンも例外なく80年代だったんだな〜と、改めて、漏れなく地球を覆う文化のグローバル化に感じ入ってしまいました。監督さん、きっとブルース・リー映画に感化されてるだろな〜とか。

それでも、当時のカザフスタンの事情がよく反映されているのか、東アジア系、中央アジア系、ロシア系etc.と得体の知れない出自の登場人物たちが違和感なく配置されてはいますし、相変わらず配列がバラバラな時間軸といい、少しくたびれた建物や街並み、小道具をさばく独特の映像センスといい、いきなりナレーションが物語を仕切り始めたり、線画が登場したりといった映画文法の不思議な活用といい、ロシア映画(と言うのは正確じゃないかも知れないけど、とりあえず)の独自性も色濃く滲み出ています。

劇中のテレビ映像だと思ったシーンが回想シーンだったり、主人公の心境を重ね合わせていたりと、よく見ると造りも凝っています。

強そうな名前の割に、追手に怯えて自らを檻の中に閉じ込めてしまうスパルタクスや、ディーナを利用する冷酷冷徹な悪の巨魁かと思えば、水がなくなってもなおプールに隠れようとする医師、ようやく立ち直るのかと思いきや、依存から抜け出せないディーナ。

ニヒルに見えて、そんな弱い者たちを見捨てられないかのようなモロが、魅力的に見えてくるんですね…。

海が見たいと懇願するディーナを連れて出かけた場所(アラル海?)は、いかにも海辺の風景なのに、水は干上がり、ひび割れた砂漠のような場所。打ち上げられたクジラのように、陸で朽ちていく鋼鉄の船が鎮座しています。

以前二人が来たときは、ひょっとしたらここも海辺だったのかも知れません。しかし、希望を託して来てみれば、まるで別の惑星のような広漠とした風景になっています。この時点ですでに、不吉な未来の予感がするのですが、そんな中でも、モロは全く飄々としています。風に転がる草や、頭上を通り過ぎる飛行機、荒れ果てた「海の家」、こうした全ては絶望のアイコンなのに、あるいはそうだからこそ、独特の美しさを持って観る者に迫ります。

物語の舞台となる場末のカフェバー、廃墟のような動物園、古びた家具が並ぶアパート、空中庭園のある病院、どれもが常識ではとても美しいと言える代物ではないのに、激しく惹きつけられてしまいます。まるで、ナレーションの「これから美しい物語をお聞かせします」という言葉の暗示にかかったかのように…。

音の使い方も独特で、冒頭のKINOによるオープニングの歌も内容と巧みに被ってきますし、ラジオの音として流れてくるプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」や、アパートのシーンやプールのシーンに被ってくる、ドイツ語、イタリア語講座の音声など、とても効果的で唸らされました。

ラストシーンも、日本でこれリメイクしたら絶対に主演は松田優作よねーとか余計なことを考えてしまうものの、バックに流れる歌とともに、美しく、強烈なインパクトを遺します。

主演のヴィクトル・ツォイは、まさにこの歌の通り、若くして交通事故でこの世を去ってしまいました。僕の無事を祈ってくれ…邦題にも取られた歌詞の、そして物語のラストとなるこの1行に、いつまでも響く余韻を感じています。本当に好きですね、この映画…。

オーディトリウム渋谷で観ました。ユーロスペースと同じ建物内にあります。こじんまりしたスペースですが、椅子はきちんとしています。今回の上映ではスクリーンが小さかったので7列目くらいが見やすかったですが、前に人がいると厳しいかもしれません。

作品情報=http://cinema.pia.co.jp/title/133527/
posted by 銀の匙 at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月08日

スタフ王の野蛮な狩り

ちょうど今、オーディトリウム渋谷で「ソビエト・フィルム・クラシックス」と題した映画祭がおこなわれており、そのうちの1本として鑑賞しました。

1979年のソ連映画なんですが、第一印象はズバリ、レンフィルム製作の傑作「ロシア版シャーロックホームズ「バスカヴィル家の犬」」。

閉鎖的な村、しかも沼地で起こる事件といい、誰もが怪しく見えちゃう登場人物(ホームズと違って、ワトソン=主人公のベロレツキーさえ怪しく見えちゃうけど)といい、大筋がよく似ています。

20世紀初頭の、とある大雨の夜、沼地の村に民話の採集にやってきたという若き青年貴族学者・ベロレツキーは、雨宿りをしようと、とある屋敷のドアを叩きます。うら若く美しい女主人ナジェージダは、最初のうちこそ親しげに話をしますが、民話の採集の話になると突然席を外してしまい、執事にも女主人に失礼だとたしなめられてしまいます。

何が失礼だったのかも判然としないまま、夜中におかしな物音を聞いたベロレツキーが目撃したのは、女主人と老婆の、怪しげな悪魔祓いのような儀式。そして、一族が一堂に会しての、さらに怪しげな、女主人の成人式。祝いの客が帰ると、ナジェージダは成人式の贈り物として伯父ドゥボドフクが運び込んだ巨大な肖像画を罵倒し、気絶してしまいます。

目が覚めたナジェージダは執事に命じて、ベロレツキーにこの館と一族にまつわる呪いの話を聞かせます。かつてこの地方には、「スタフ王」と呼ばれる英雄がいました。農奴をはじめ誰もが彼を慕う中、彼女の先祖であるロマン・ヤノフスキーは快く思わず、ついに彼を亡き者にしてしまいます。「スタフ王」は12代先までお前の子孫を殺めるであろうという恐ろしい呪いの言葉を遺して消えてゆきました。

以来、ヤノフスキーの一族には変死や狂気が蔓延し、今に至るも、館にはおかしな物音が響き、沼地にはスタフ王に率いられた幽霊騎士たちが現れ、人間狩りを行うというのです。伯父から贈られた巨大な肖像画の人物こそ、彼女の偉大なる先祖であり、また呪いの源であるロマン・ヤノフスキーだったのです。ナジェージダもまた、この伝説に怯えており、幽霊騎士を見かけたり、館を走る小人を見かけたと口走ります。

昔は吸血鬼や狼男なども信じられていたし、見たという人もおりますよ、と学者らしい理性的な態度を崩さないベロレツキーでしたが、滞在を延ばすうちに沼地で何者かに発砲され、また、館の中でおかしな物音や人影を見聞きするようになります。この話は誰かが仕組んだものに違いないと周囲を疑うベロレツキーでしたが、彼が怪しんだ人物たちも沼地で次々と殺され、彼自身も幽霊騎士を目撃するに至ります。警察に乗り込んではみたものの、下手に動くと損をしますよと忠告される始末。

そして、かねて招待されていたドゥボドフクの館を訪ねると、ちょうど道化の一座が、人形劇を演じていました。演目はまさに「スタフ王」。その筋書きは、領主の美しい娘に横恋慕したスタフ王が、娘と館に隠された黄金を目当てに領主の首をはね、ひいては娘の首もはねてしまう、という、伝説とは真逆のお話でした。

ドゥボドフクの屋敷を叩きだされた道化の一座は、沼地で幽霊騎士に襲われ、あえない最期を遂げてしまいます。それを見た村人たちは…。

一体何が起こるのか先の見えない展開で、ゴシック趣味満点の設定といい、魑魅魍魎が湧き出てきそうな館の内部といい、サスペンス好きの皆様にはこたえられない内容なことはもちろん、こんな怪奇映画でなぜか全体に上品な雰囲気なのが実に不思議な味わいです。沈んだ色調の映像も美しく、見ごたえのある作品です。

ということで、サスペンスをネタバレすると面白くないので、これから観る予定の皆様はここまで。以下は観終わっての感想ですが、お話の結論部分に触れていますので、分かってもいいや、という方のみどうぞ。




以下、お話の核心部分に触れています。
posted by 銀の匙 at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする