2005年03月17日

「王の帰還」劇場版

rotk2
以下ははいねさんの「LotR Spoiler News」に書かせて頂いた感想です。HPのバックアップ用記事です。劇場版初回・ネタバレ少々ありの内容となっております。ラストシーン中心の長い記事はこちらです。
同時期にかおる@ヨーレスのオババ様が書かれた感想はこちらです。
  

(「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」関連の記事を最初からご覧になりたい方は、右のカテゴリー欄から「ロード・オブ・ザ・リング」を選んでいただくか、→こちらのリンクからスクロールして戻ってご覧ください)

これまで同じ映画を複数回見ることは、滅多にありませんでした。ところがLotRに限っては、それこそ取り憑かれたように何度も見ています。一体なぜなのか。今回、ニュージーランドまで出掛けて「王の帰還」を都合6回も見ながら、ずっとそのことを考えておりました。

初回に見たのは12月20日、ニュージーランド最大の都市・オークランドの「Village Hoyts Queen St」というシネコンでした。深夜にもかかわらず満席です。さすが監督のお膝元だけあって、本編に先立ち、テレコム、ニュージーランド航空といったスポンサーが、LotRの名場面を巧みに使った広告を流し、気分を盛り上げてくれます。

本編を見るにあたり、原作はいったん置いて一個の映画作品として楽しむよう努めるつもりでしたが、いざ始まってみるとそんな誓いが思い出せないほど、映像に引き込まれてしまいました。ニュージーランドの壮大な自然がそのまま見せ場のシーン、一大史劇を観るようなスペクタクルなシーンが現れるかと思えば、メリーとピピンの別れの場面のように感情に訴えてくる場面も登場します。

とりわけ嬉しかったのは、脚本、演出、音楽、美術、俳優の演技など、すべての要素が調和していたことです。ストーリーの関係上扱いが大きくなくとも、それぞれのキャラクターにふさわしい見せ場が用意され、それらが大きな物語を織り成しているさまは、大小さまざまのピースがぴたりとはまってパズルが完成するような快感を与えてくれました。
戦闘シーンは凄惨で容赦のないもので、ピピンとメリー、二人のホビットの目を通して描かれ、単なる活劇に終わっていない点も評価できます。

執政家については、前作の消化不良気味なファラミアの描写に不満があったこともあり注目していました。今回は作品内で一応のまとまりがあったように思います。特に、問題になっていた食事シーンは前半の見せ場でもあり、シークエンス全体として見ると悪くないように感じました。
ジョン・ノブル扮するデネソールは、初登場のシーンにおいて、父子の情に流されすぎではと思わせつつも、「白の塔の眼は節穴ではない」に続くセリフで、執政としてそれなりの人物であることを伺わせます。
ところが、次の食事シーンに来て突如観客は悟るわけです。普通に見えても、この人は何かが決定的に狂っている。ジョン・ノブルの演技は複雑で、その行動が狂気なのか、ファラミアへの隠された愛ゆえか、どちらともとれる演出も冴えています。
白い都と黒の衣装のコントラスト、冷え冷えとした宮廷の描写から石の都に響く鐘の音まで、このシークエンス全体の編集、音楽、音響、美術のアンサンブルは絶妙で、第三部の良さが凝縮されているように思いました。

さて、ニュージーランドのお客さんの反応は、私の見る限りでは日本とあまり変わりません。拍手もしないし、歓声をあげたりもせず、おとなしい限りです。それでも、どの映画館でも笑い声が起こるシーンというのはありました。ギムリのギャグ、ガンダルフの"Get up!"、エオウィンの"I am no man!"(なぜここで皆笑うのか不思議だった)、そして、キリス・ウンゴルのシークエンスです。

キリス・ウンゴルといえば、「二つの塔」から「王の帰還」にかけて、モルドール・ルート最大の山場であり、泣けるに違いない!と期待していたところです。ところが案に相違して、先ほどまでと同じ映画かと疑うほどB級ホラー風味というか、昔なつかし東映の怪獣映画みたいな展開(そしてさすがと言うべきかハワード・ショワの音楽の、なんと場面に合っていることよ…涙)、しかもお客さんがまた、各シーンで遠慮なく笑うんですね。あまりのことに、こちらは椅子からズッコケそうになってしまいました。

主人公の絶対絶命の場面で反射的に笑っちゃうような絵をもってくるのは演出としてどうか、という以上に問題なのは、サムの心の動きと指輪の扱いです。使命をまっとうするか、一命を投げ打って主人の傍にいるか悩んだような描写もなく、危機が去った後、指輪をあっさりポケットから出されてしまうと(少しはフロドに渡すのを躊躇しますが)、本当にサムは主人に忠実だったのか、ファラミアの性格を変えてまで指輪の恐ろしさを強調したこれまでの演出ポリシーはどこへいってしまったのか、解釈に苦しみます。原作ではここでフロドが、献身的なサムさえも指輪を狙う者と見てしまうのがショッキングで、その変化は後のシーンへのステップにもなるわけですが、映画では類似のシーンが他にも用意されていますから、見る側はまたか、といった感じです。そのせいで、シークエンス全体が、ちょっとここらで見せ場を作っておくか、くらいのあってもなくてもいいような軽いものに変貌してしまったのが惜しまれます。

もう一つの問題は―これは皆様、大いに異論がおありかと思いますが―、物語中盤におけるイライジャ・ウッド(フロド)の演技です。前2作や他の出演作に比べておおよそ彼らしくなく、どうにもオーバー・アクト気味だったように思います。イライジャの演技については全く心配していなかっただけに、本当に意外でした。
私としてはむしろ、「二つの塔」でショーン・アスティンが見せた英雄的サム像の行く末が気がかりでしたが、意外に良かったです。今回良い役回りだったこともありますが、主人の危機にあっては勇敢なのに、根は平凡で素朴なホビットとして描かれていてほっとしました。
他にもモルドール・ルートの中盤は、ショットを飛ばして無理につないだような座りの悪い部分が散見され、クライマックスにも驚きが感じられませんでした。そんなこんなで、正直申し上げて初回には、ここで席を立って帰っちゃおうかなくらいにヘコみました。

ところがです。
物語が終盤に入ると、奇跡のように巻き返しが始まります。まずは滅びの山でついに何もかもが終わるところ。'And there was Frodo,...yet himself again...There was the dear master of the sweet days in the Shire.'という原作の記述そのままのシーンが展開します。原作を読んでいない観客は、この唐突なフロドの変化にちょっとムッとするかもしれませんが、ともかくこのシーンのアスティンとイライジャの演技は絶品です。ここ以降、短い時間にエピソードが詰め込まれ、観る側はついていくのが精一杯な感じはあります。ただし、かなりの改変はあるものの、驚くほど原作の味わいが残っているように思いました。原作は「指輪を捨てる」行為で物語が終わってしまうのではなく、その後も話が続いていくところが面白いのですが、映画の方も限られた時間ながら、そういうニュアンスが感じられます。

灰色港の手前、馬車のシークエンスでは、イライジャは全編を通して最高の演技を見せます。時間にしてわずか数十秒。まさに「エルフ的」な、超然とした雰囲気を漂わせながらも、痛みと悲しみ、情愛を込めた表情は、これまでのフロドの道のりを感じさせてくれる素晴らしいものです。

ラストシーンも余韻がありましたが、実は当初、おや、ハッピーエンドなのかしら、と思いました。「映画では」ガンダルフがピピンに語っているように、終わりは(恐らく)死を暗示しているのも関わらず、灰色港でのフロドの表情といい、エンディングの曲調といい、監督はあまり湿っぽい終わり方にはしたくなかったのだろうと思ったからです。ですから人によって、見る回数によっても、エンディング、ひいてはこの作品全体の受け止め方は変わってくることでしょう。初回は見終わって感動したいうより劇中のセリフ通り'It's done'、肩の荷が下りたような感じでしたが、回を重ねるにつれ、だんだん終盤の各シーンの「行間」やもっと前のシーンとのつながりが読めるようになってきたように思います。解釈が一つに定まらないところ、それがこの映画の一番の良さだと思います。

この映画は原作同様、ここさえつかめばOKという中心がありません。逆に、それぞれの細部にこそ、この映画の真髄があります。つい何度も観てしまうというのは、このへんに理由があるのかもしれません。もう一つ言うと、世界中の人から愛されている原作を下敷きにしながら、この作品にはなお、ピーター・ジャクソン監督の強烈な個性が感じられます。単なる名作映画の枠に収まらない毒気に、何かやめるにやめられない麻薬的な魅力があるようにも思います。
そうはいっても、原作はとても一つの映画的解釈だけで満足できるものではありません。バクシ版の「指輪物語」を見て映画化を決意したジャクソン監督のように、この映画を見た人たちの中から新しい「ロード・オブ・ザ・リング」が作られる日を、今から心待ちにしています。
(若干ネタに走ったSEEへのあんまり真面目でもない感想はこちら

長文・ラストシーン中心の感想はこちら


★こちらの映画館で見ました↓
Village Hoyts Queen St。ニュージーランドのオークランドの目抜き通り、クイーンズ・ストリートにあるシネコンです。夜中まで開いているBorders New Zealandという書店やファーストフード店が併設されています。同じ建物内に巨大なスクリーンで見られる劇場もあったことを、帰国してから知り、ちょっと残念でした。


作品情報=ぴあ http://cinema.pia.co.jp/title/2222/


posted by 銀の匙 at 01:59| Comment(0) | TrackBack(2) | ロード・オブ・ザ・リング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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