2014年08月24日

蘭陵王(テレビドラマ2/重箱四隅編)

さて、前回(こちら)に引き続きまして、テレビドラマ「蘭陵王」の続き。

実在の人物、蘭陵王については正史に500字ほどしか記述がありません。(史実編参照)

でもドラマは46話もある。

しかも、何と第9話にして、史実では彼のキャリアのハイライトである、「邙山(ぼうざん)の戦い」が終わっちゃう。

あとは一体どうするんだろう…というのは外野の余計な心配で、他の登場人物の史実も取り入れて、虚実ないまぜにしつつ話は続くんですけど、私はやっぱり第10話までが一番好きだなぁ。

この先、20番台は、何とかして蘭陵王を振り向かせようとする鄭児〈ていじ〉と、自ら困った状態を招いている楊雪舞〈よう せつぶ〉、視聴者にまで見捨てられそうになる(そして演じてるウィリアム・フォンにすら見限られた)蘭陵王の、息詰まる宮中陰謀ものになってしまい、苦手な人には辛い展開。

30番台に入るとやおら持ち直し(っていうか、私が女の戦い系の話が苦手なだけで、好きな人には20番台も面白いんじゃないかとは思う)、特に、ついに皇太子(新皇帝)と蘭陵王が激突してしまう、33話と35話,36話は必見ですね。ここを観て、蘭陵王役にウィリアム・フォンは正解だったと思いましたもん…。

と、先走ってしまいましたが、お話の流れをすごーくざっくり説明すると、

第9話までが(北)斉と(北)周の攻防戦を軸にした戦記もの。

(斉と周という国号は他の地域や時代にも存在するので、歴史上は区別のために「北斉」「北周」って呼びますが、ドラマは同時代を描いているので、以後、斉・周とさせていただきます)

第18話までが、斉、周、それぞれの宮廷での内紛を軸にした宮中もの。

第27話までが、蘭陵王府内の女の闘いを軸にした後宮(?)もの(って言っても対象者2人だけど)。

第36話までが、斉の新皇帝と蘭陵王との葛藤を描く政局もの。

そして36話にして史実通り、蘭陵王は毒を賜ってしまう…。

えっ…、ドラマはこの後、10話もあるんですけど!?

そしてここから最終回の46話まで、お話は異次元に突入しちゃいますが、実はこの最後の10話でいよいよ時代は転換期を迎え、第11話以降でなんだか変節していたそれぞれのキャラクターが、終局に向けて、本来の役柄を全うし始めるんですね。そういう意味ではとても面白い構成です。

それから、第1話で、まるで未来を見切るかのように登場した楊堅ですが、どうストーリーに絡んでくるのかと思ったら、最終盤のあたりでちょろっと出てくるだけ。これはちょっと使い方が勿体なかったかも…。

せっかくなので、彼が出てくる第1話をおさらいしておきましょう。

西暦557年 魏晋南北朝末期。かつて一族の者が助けられた恩に報いるため、巫族〈ふぞく〉の長老・楊林氏は、いつもは外界から閉ざされた自らの村に、周の武将・楊堅を招き入れます。彼は10年に一度、楊林に将来を占ってもらうという特典を与えられているらしい。

早速、この先10年の戦局を尋ねられ、楊林は、対峙する周と斉に2人ずつ、天下を動かす人物がいると伝えます。

周では、
・事実上の支配者、大冢宰〈だいちょうさい〉である宇文護〈うぶん ご〉
・彼の元で謀叛に怯える年若き皇帝・宇文邕〈うぶん ゆう〉

そして斉では、
・現皇帝の長男である皇太子・高緯〈こう い〉
・そのいとこ(現皇帝の兄の子)である第四皇子の高長恭〈こう ちょうきょう=蘭陵王〉

がそれに当たります。

大冢宰っていうのは聞きなれない役職ですが、長官たちを束ねる「太宰」と、その官名である「冢宰」が合体したもので、(北)周だけの官名らしいです。

ちなみに、この人たちの苗字は「宇」じゃなくて「宇文」で、ドラマには他に、史実でも重要人物である、宇文邕の腹心、宇文神挙〈うぶん しんきょ〉が登場します。

s-shenju.jpg

この人、動きがキビキビしていて気持ち良い上に、あまり感情を表に出すシーンはありませんが、良い人っぽいことが行動から分かります。ドラマでは出ませんが、史実では、何と彼も、日頃の廉直な人柄が災いして、蘭陵王同様、無能な次の皇帝(宇文邕の息子)に睨まれて毒を賜ってしまうらしい。

任兼文武,聲彰中外。百僚無不仰其風則
(文武両道に優れ、その名声は国内外に聞こえており、官吏たちでその人柄を尊敬しないものはなかった)

と、めちゃ褒められてるんですけど。
この時代の仕事できる人ってカワイそう...。

彼ら宇文氏の他にも、このドラマには「斛律(こくりつ)将軍」とか、妙な苗字(ごめん)のひとがいっぱい出てくるんですが、こういう2文字の苗字を、複姓といいます。『史記』を書いた「司馬」遷とか、三国志の「諸葛」孔明とかは有名ですよね。

以前、台湾の友だちが「あなたの苗字が羨ましい〜」って言うので(私の苗字は日本じゃ特に珍しくない)、「何でよ?」と聞くと、「だって、小説の主人公ってみんな2文字でしょ。「令狐」沖〈れいこ ちゅう〉とか「東方」不敗〈とうほう ふはい:人(?)名です〉とかさぁ」だって。

それはあなた、金庸〈きんよう〉の小説読み過ぎだってば。

ちなみに、「司馬」や「諸葛」は漢民族の姓ですが、複姓には周辺民族出身の人が多く、「宇文」は鮮卑〈せんぴ〉族、「斛律」は敕勒〈ちょくろく〉族の姓。

南北朝の当時、軍人は漢民族以外の民族が主流であり、漢民族出身の文官と揉めたりして政治が不安定になる要因を作っておりました。

koku2.jpg

↑斛律光(こくりつ こう)将軍。

弓の腕前は後代まで有名で、見事ワシを射止めたことから落G〈らくちょう〉将軍と称されます。ドラマでもチラッとその名で呼ばれましたね(日本語吹き替えでは出てたかな?)。

その勇猛ぶりは唐の詩人・杜牧〈とぼく〉に、

落G都尉万人敵 (落G都尉は万軍に打ち勝つ)

と歌われています。史実では、娘さんはなんと、高緯の正妃になったらしい(ドラマでは皇后になったのは鄭児(ていじ)ですけど、史実では斛律光の娘なんですね)。

ドラマでは息子の斛律須達〈こくりつ しゅだつ〉が蘭陵王と義兄弟ということで、彼を餌に蘭陵王を誘き出さんと、蘭陵王に扮した敵軍の将軍・尉遲迥〈うっち けい。この人も複姓〉に捕えられてしまいます。

ついでに言っとくと、ドラマでは蘭陵王のコスプレしてみたり、美貌で知られる高長恭(蘭陵王)の素顔を見て、な〜んだ♪って顔して見たり、そのビジュアルでいったい何様? な尉遲迥ではありますが、史書によると彼も美貌の人だったらしく(この時代、美貌の武将多すぎ)、こういう態度を取る権利は十分にあったと、名誉のために付け加えておきます。

何だか余計な話で長くなりましたが、蘭陵王は、おばあ様が話した時点で16歳。

16歳で軍神と褒めたたえられてるって、すごくない?
しかも話をしてる557年の時点じゃまだ領地を与えられてないので、蘭陵王じゃないし…

ん?

ここでハタと気づきましたが、おばあ様、楊堅も知ってるはずのこと、何を得々と解説してるんだろうと思っていたけど、この話は途中から未来の予想になってるんですね。

中国語の動詞にははっきりした未来形がないから気づかなかったわ(ややこしい)。

ってことで、話は十年後(567年)、黄河 壺口関〈ここうかん〉。

ここは周との境に接する要衝の地とのことですが、Googleマップ様によりますと、当時の斉の首都、鄴〈ぎょう〉からは、車だと渋滞なしで7時間半。ちなみに徒歩だと111時間ほどかかります。

今はもう、鄴という場所はありませんが、現在の河北省邯鄲〈かんたん〉市の近くに当たるそうです。おぉ、「邯鄲の夢」の邯鄲! なんかこの地名も伝説っぽい地名ですね。

逆に、ここから、周の都・長安までは車で4時間と、半分の近さ。こりゃ防衛上ヤバい場所です。

対峙する尉遲迥〈うっち けい〉の居点、丹州城までは、有料道路を使えば車で57分の距離らしい(近いな)。

ここを、蘭陵王とその異母弟の第五皇子・安徳王〈あんとくおう=高延宗〈こう えんそう〉〉と、配下の楊士深〈よう ししん〉、義兄弟の斛律須達が守備している。

yangshishen.jpg

向かって右が安徳王、左が楊士深。

koku1.jpg

そして、斛律須達。

このシーン以降、常に兄の影となり、日向となってサポートする、ドラマの安徳王高延宗(こうえんそう)はなかなかチャーミングで、のほほんとしつつ、いざというときは頼もしい役回りなんですが、まだ小さいうちに父を亡くし、叔父に溺愛されて育ったせいか、史実の前半生は相当なヤンキーで、かなりお下劣な事をやらかして百叩きの刑に遭い(しかもその時、あまりに反省してない態度だったので、さらに30回追加になりました・呆)、取り巻き9人をメッタ斬りにされてようやく目が覚めたというとんでもない人物であります。

s-wuye3.jpg
↑酔ってるし。

そういや、ドラマで鄭児が、囚人を引き出してお互いを戦わせ、なぶり殺しにするという「囚人遊び」を咎められると、「高家の伝統よ」とかなんとか言ってるシーンがありましたが、史書によれば誰あろう、囚人を試し切りの材料にしてたのは第五皇子その人だったのでございます(大呆)

s-wuye2.jpg

しかし、蘭陵王が亡くなった後で、一番悼んだのも、後の始末に尽力したのも、ドラマ・史実ともこの人だったことは間違いないようです(→史実編参照)。

さて、ドラマに戻りますと、斛律光将軍の到着を待つ蘭陵王たちは、一計を案じて、尉遲迥の兵力を削ぐことに成功。ただ、戦闘が元で愛馬・踏雪(とうせつ)が怪我を負ったため、蘭陵王は独り、傷に効くという近くの温泉場に愛馬を連れて行き、そこで、鶏を捕まえに(&硫黄を採りに)現れた雪舞と出会うことになります。

楊雪舞の住んでいた村はどこにあるのかハッキリしません。
でも、高長恭に向かって、
「あなたは斉の武将なの?」と聞いているところを見ると、はっきり斉に組み込まれている訳でもないらしい。
 この後、楊雪舞は高長恭が置き忘れてしまった仮面を届けるため(こんな大切なもの忘れるなんて、どうかしてると思いますが)、一番近い大きな町、ということで南汾州城という町に向かいます。「日の出の方角に歩いていく」と言っているところを見ると、その町よりは西にあり、当日中に着いてるらしいところをみると、一泊しないで行ける距離にあるはず。

地図で見ると、汾州はほとんど黄河沿いにありますので、周の領地に接していたんでしょうか。
そんなこと詮索してどうする、なんだけど…。

爆弾娘・楊雪舞は、彼女の時代より200年くらい前に書かれた『抱朴子』〈ほうぼくし〉を読んで、そこに書いてある「火樹銀花」(かじゅぎんか:いまでいう花火)を作ろうとしてたらしい。(おばあ様の誕生日祝いに…と言ってたけど、成功してたとしても、絶対怒られてると思う…楊雪舞が何をしても褒めてくれるのは、中国広しと言えども、宇文邕〈うぶん よう〉だけですよ)

魏晋南北朝の時代といえば、世相の不安を反映してか、道教や仏教が流行り、知識人たちは薬や酒を飲んでラリったり(竹林の七賢はこの辺の時代のひと)、不老長寿の煉丹術を極めようとしてたと言われています。(→第8話参照

錬金術が化学を発展させたように、錬丹術も医学や化学の発展にかなり貢献したので、その辺の事情がさりげなくお話に盛り込まれているのでしょうか。

ところで蘭陵王の愛馬の「踏雪」(とうせつ:ターシュエ)という名前ですが、これは「ぶち」とか「とら」とか「みけ」と一緒で、馬だけじゃなく、動物一般の模様を表しています。全身が黒で、4本の脚の先が白いので、まるで雪を踏んでいるようだから「踏雪」というわけ。

「くつした」なんていうのより優美な名前で、私は好きなんですけど、俗に「踏雪模様の猫はよく逃げる」というらしい。

そういや、犬にも「踏雪」模様のがいるじゃないですか。日本じゃ「のらくろ」だけど…。

なんてくだらない事を書いてたら、また長くなってしまいました。次回こそ終わりにしよう…自信ないけど…。てことで、「千編万語編」に続く。
posted by 銀の匙 at 10:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 蘭陵王(テレビドラマ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
蘭陵王分の記事、全部読んで全部にコメントする暴挙をやらかしそうなので、とりあえず過去記事にこそっと書かせて頂きます。

そもそも蘭陵王を見ようと思ったきっかけは、ポスターや宣伝資料などで見る絢爛豪華な衣装や素敵な決めポーズのイイ男たちとアリエル・リンだったのですが(笑)
あくまでも宣伝用ですよね。あれはいずこに?っていうのもあったし(笑)
仮面もイカツイのじゃなくてこけおどしにすらならない中途半端な般若だったし、あんなに美しい姿のお三方なんてオープニング以外出てこないし。
期待にこたえてくれたのは、相変わらずのテンションでボケてても可愛げのないアリエルぐらい(ああいう演技が上手なんだだと信じてる)でした。

なのに・・・。
蘭陵王を何回見たか考えて見ると、日本語吹替え版と字幕版で 全話 各2回は通し見をしたような。
それだけでは、まだ飽き足らず(笑)
醜いバトル(主に鄭児)回避モードで1回
各キャストシーンのみ追っかけ(それ以外早送り)で、高長恭 1回、仔ぶたちゃん 1回、一番愛すべき男「韓暁冬」 1回ぐらいは見たような。

韓国語なら聞き取りでも8割ぐらいはなんとなく理解できますが、中国語はさっぱりなので吹き替えで良いかと思いつつ本人の声だと信じて字幕で頑張って見たのに(ノω・、)
なんだかまんまとメディア戦略の罠に嵌った気もするのですが。(‥;)

いやいや、気を取り直して、ようやく本題!

>楊堅ですが、どうストーリーに絡んでくるのかと思ったら、最終盤のあたりでちょろっと出てくるだけ。これはちょっと使い方が勿体なかったかも…。

本当に、もったいない!!
一番男前(私見!)だったのに(笑)

いやいやそんなことより、このドラマの最大の謎?!も解明されていないのに!!

この世のものとは思えない五色の鳳凰とおこちゃまの雪舞と楊堅が共存してるシーンは557年。
楊堅と高長恭は541年生まれの同い年(wiki情報)、ってことは16歳・・・。いくら男前でもあんな16歳はブツブツ。
でもって最終盤にチラリと出てくる彼は、もう先は長くない仔ぶたちゃんより2歳年上で30代半ばのはず。
見た目に全く変化なし。
・・・。
もしかすると楊堅は妖精?(注:中国語的)
設定が謎過ぎです。(‥;)


>宇文神挙〈うぶん しんきょ〉
>無能な次の皇帝(宇文邕の息子)に睨まれて毒を賜ってしまうらしい。
>この時代の仕事できる人ってカワイそう...。

いつの時代も出る杭は打たれるんですよね。
特に能も器もない上司がいると。
それでもってその会社(国?)が潰れなかったのは、無能で横暴な自分を耐え忍んで支えてくれた優秀な部下がいたからこそだと気付いたときには、もう手遅れってパターンですよね。
もちろん、今の時代は命までとられないだけましですが。

蘭陵王は私にとって初の中国史劇だったのでとても新鮮でしたし、中国史実にはかけらも詳しくない私ですら疑問や突っ込みどころが満載で、本当に色んな意味で楽しませてもらいました。

グチグチと長くなり申し訳ありません。
蘭陵王を最後に見てから数ヶ月経ちますが、やっぱり好きだなぁと思う今日この頃なのでまたコメントを書かせていただくかと思いますが、返信なしでOKですのでお邪魔させてくださいませ(‥;)
Posted by 歌菜 at 2016年01月29日 14:12
歌菜さん、こんばんは。

引き続き、コメントありがとうございます。

>韓国語なら聞き取りでも8割ぐらいはなんとなく理解できますが、

ってスゴイっすね。あやかりたい…(´・∀・`*)うらやま〜♪
韓国語がそこまでお出来になれば、

>中国語はさっぱりなので

って言っても、きっとすぐ分かるようになりますよ。
いいなぁ。
韓国ドラマも見てみたいんですけど、未だに御縁がなくて、残念です。

>吹き替えで良いかと思いつつ本人の声だと信じて字幕で頑張って見たのに(ノω・、)

だいじょぶ、約3名以外、本人の声ですから!
引き続き頑張れ!

>もしかすると楊堅は妖精?
>設定が謎過ぎです。

まさか全てが楊堅の夢ってオチ…? 
それだけはヤメて(‥;)

ああ、いえいえ、本題はコレじゃありませんでした。

>いつの時代も出る杭は打たれるんですよね。
>特に能も器もない上司がいると。
>それでもってその会社(国?)が潰れなかったのは、無能で横暴な自分を耐え忍んで支えて>>くれた優秀な部下がいたからこそだと気付いたときには、もう手遅れってパターンですよ。
>もちろん、今の時代は命までとられないだけましですが。

な、何があったか分かりませんが、
…歌菜さん、引き続き、頑張れ!!

ということで、面白い韓国ドラマのお話もぜひ聞かせてください。

ではでは。


Posted by 銀の匙 at 2016年01月30日 01:37
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