2016年01月19日

神なるオオカミ(表示以降、ネタバレ注意)

s-神なるオオカミ.jpg
写真はチラシから

フランスの巨匠・ジャン=ジャック・アノー監督の中仏合作映画。ロードショーはならず、「未体験ゾーンの映画たち2016」での限定公開となりました。

文化大革命の時代。北京の大学生・陳陣(チェン・ヂェン=Chen Zhen/ウィリアム・フォン)は、楊克(ヤン・クー=Yang Ke/ショーン・ドウ)と共に内モンゴルに下放されます。厳しくも美しい自然と、モンゴル族の生き方に惹かれるチェン。ことに、草原で出会ったオオカミに魅了されたチェンは、長老や現地の人たちの忠告も聞かず、こっそりオオカミの子を飼いならそうとするのですが…。

刻々と変わる空と広々とした草原が織りなす自然描写や、本当にその場で何年も生活しているような、キャストたちの騎馬シーンは見ごたえ十分。オオカミに象徴される自然とのぎりぎりの折り合いで成り立ってきた暮らしがあっけなく壊れていくさまに、感慨を覚えずにはいられません。

前作《后会有期》(いつか、また)《黄金時代》では微妙に役に嵌っておらず、主役が別の俳優さんだったらもっと良い映画になったんじゃないか…とかつい思ってしまった(ごめん!)ウィリアム・フォンですが、今回は、いかにもではありますが、純粋で未熟な知識青年を危なげなく演じていました。たま〜に60年代というよりは30年代的な表情になってるときがあったり、これで大学生ってのはちと苦しい、と思うカットもなくはなかったですけど…。

注目すべきは彼の声の演技で、ナレーション的なセリフも含め非常に良かったです。ちょこちょこはさまるモンゴル語は、上手いのかどうかは分かりませんけど現地にしばらくいるとこんな感じに混ぜこぜで話すようになるんだろうなっていう雰囲気が良く出ていました。コンビ役のショーン・ドゥは役柄その人にしか見えない好演。モンゴル族キャストもさすが本場の貫禄です。

ということで、以下はネタバレというか、個人的な感想です。

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基本、面白いと感じた映画について感想を書くようにしているのですが、今回は例外です。いちおうウィリアム・フォンの主演作品なので、資料(?)として、ということでエントリー。

頑張って作った映画だというのはよーく分かったんですけど、ハッキリいって残念な作品だと個人的には思いました。

ロケ地も良かったしキャストも好演しましたが、ニューエイジっぽい作品によくある、少数民族に肩入れして環境問題を扱ってみました的な映画に感じてしまったし、いかんせん、お話が弱かった。

オオカミと人間の関係を語る長老の言葉は重みがありましたが、言葉と行動とに微妙な齟齬が感じられ、全くのフィクションではなく実在の内モンゴルを舞台にしているだけに、お話の世界観に、どこまで現地の人の見方が反映されているのか疑問だという感じもしました。

物語的に弱かったと思う理由の一つには、主人公チェンの行動が一貫して唐突であることが挙げられます。オオカミに魅せられた原因になったはずのシーンも、あれでどうして?って感じだったし、なぜそこから子オオカミを育てることに考えが及ぶのか、セリフでは説明してたけど飛躍がありすぎです。素直そうな人柄なのに、野生の動物を、しかも牧羊地で飼うなんて、必然性も薄く誰が考えても問題が起きそうな事柄になぜ固執するのかも理解しづらい…。

彼は現地の人や文化の理解者を自認していたけれど、結果的には、他所から来て土地の自然や習慣を破壊する人たちの一員に過ぎなかった、ということなんだろうと納得はするものの、それを見せるためのご都合主義の展開に見えてしまう。

つまりは主人公の扱いが中途半端。彼に感情移入させていれば、彼が採った愚かな行為にはもっとインパクトがあっただろうし、ニュートラルな立場に置いておくなら、彼の行動自体にもっと必然性を持たせないと、異分子が異端な行動に出ているとしか映りません。

原作を読んでないので分かりませんが、ここがお話のキモなんだから、もっと丹念に描写した方が良かったんじゃないでしょうか。

しかも、彼もヤン・クーも、最後には北京に戻ってしまいますが、そこもあっさりナレーションで片づけられているので、その直前の現地に骨を埋めそうな勢いとはギャップがありすぎて、いったい何なのこの人たち、という印象。2人とも悪くない演技だったのに、もったいない…。

もったいないついでに、もう1つ言うと、オオカミの描写もイマイチに感じました。いくつかのシークエンスはオオカミが主役になっています。演技をつけた本物のオオカミなのかも知れないけど、やりすぎな感じで、かえって不自然。

ラストシーンにCGで描いたと思しきオオカミ形の雲が出てきたりして、まさか、かなりのシーンがCGの拵えものかと思ってしまいました。せっかく自然が綺麗に撮れてるのに、そんなウソっぽいシーンを最後に持ってくるなんて、損ですよね。

まあここはひとつ割り切って、モンゴルの美しい自然とウィリアム・フォンの美声(とこの映画を観て初めて認識した)を堪能するってことでもいいのかもしれません。中身を良く理解している訳でもないくせに、言いたい放題で恐縮なのですが、良い素材を微妙にダメにしている感じが、何とも惜しかったので…。


ジャン=ジャック・アノー監督
ヒューマントラストシネマ 渋谷で見ました。
一番大きなスクリーン1は、結構見やすいです。
手前に通路があるI列で観ましたが、G,H列くらいのほうが迫力があるかも知れません。
まん前に人が居なければ、ですけど…。
posted by 銀の匙 at 01:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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