
素朴なフォークアートという触れ込みで見に行ったんですが、予想に反して、現代アートっぽいのに驚きました。
砂糖カエデからメープルシロップを作る、楽しい農作業の光景。雪の日のソリ遊び。大変だけれどにぎやかな農家の引越し。農村から力強く立ち上がる虹。
描かれている風景は、そのまま「大草原の小さな家」の挿し絵になってしまいそうな、1900年代前半のアメリカの農村ですし、画家も70歳にして本格的に絵を描きだしたおばあちゃん。でも絵は紛れもなく現代のものです。どうしてそう感じるのか考えながら見ていました。
彼女の絵は、素朴で暖かく、美しいものを題材にしているところが、ちょっと谷内六郎の絵に似ています。稚拙に見える人物の描き方などもそうです。しかし、画面に描き込まれているものの配置や距離感が、普通見慣れた絵画とは全然違っています。見ているうちに現実世界を見失ってしまいそうな奇妙な感覚に陥ります。
色彩も独特です。印刷物を見ると割合沈んだ色のようですが、実際の作品は、油絵絵の具のチューブから出してそのままみたいな色や、ピンク、水色がかった緑などアクリル絵の具みたいな色も多く、かなり強烈な色遣いで、とても現実の農村の色合いには見えません。
不思議に思いながら展示をみていくと、「下絵」の展示があり、謎の一端がわかったような気がしました。
これらの絵は、目の前にあるものをそのままスケッチしたのではなく、昔の記憶を呼び起こすために、新聞や雑誌のイラストを切り抜いて再構成したものを元に作り上げられたものだったのです。だから、「コラージュ」で作られた、シュールレアリズムの絵みたいな感じがしたのでしょう。
また、モーゼスおばあさんは、絵を描き始めたのこそ70歳になってからですが、それより前は刺繍で風景画を作っていて、大変評判がよかったのだそうです。あの独特の色遣いは、現実の景色の色というより、染められた糸の色なのかもしれません。
そして、これらの特徴は、厳しい現実と結びついています。絵が描かれた時期には、すでに彼女がモチーフにしたような、にぎやかで豊かなアメリカの農村の風景は失われてしまっていました。おばあちゃんは、記憶の中にある懐かしくも美しい農村の風景を見てもらうために、昔の新聞や雑誌のイラストから、昔の風景を蘇らせるしかありませんでした。
絵筆を執ったのは、高齢になって、刺繍ができなくなったため、家族に絵を描くよう勧められたからだそうです。
しかし、そうした背景とは切り離して絵を見ると、そこには、ノスタルジックな風景画という以外の、1950年代のコンテンポラリー絵画という確固たる作品の価値が存在するように私には思えました。
Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)
2005年1月30日(日)まで